[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
止まらなければ。
でも、止まったらすべて終わりだ。
追い立てられるように、また――。
ゆ め み が ち ジ ェ ラ シ ー (下)
何度も、何度も夢の中で夏目を犯した。
シャツを剥ぎ取り、ひんやりとした肌を辿り、この腕に閉じ込めて――。
伝えられない思いは募り、夢想はどんどんエスカレートした。
幼い頃の経験が原因なのか夏目は警戒心が強く、なかなか心を開かない。
人当たりは良いし、愛想も悪くない。
ただ、少し距離を置くのだ。
それが、夏目の処世術なのだろう。
そんな彼も、やっと心を許してくれるようになってくれた気がする。
ふたりでいるときは良く笑い、互いの家にも頻繁に遊びに行くようになった。
じっくりと時間をかけて築いた今の関係を、田沼の勝手な私情で壊すわけにはいかなかった。
こんな夢、叶わなくってもいい。
傍にいられるならば、それだけで――。
しかし、そんなものは所詮建前でしかなかったのだ。
本当は手に触れるたび、自分の胸へ引き込んでしまいたかった。
この手でめちゃくちゃにできたなら――。
そんな風に、心の奥底では願っていた。
そしてその願望は、小さなきっかけで簡単にすべてを壊してしまった。
この愚かで醜い願いが、夏目を汚す。
なんて、おぞましいことだろう。
そう思っていたのに――。
自分の口付けに頬を染め、熱い吐息を漏らす夏目に、どうしようもなく興奮している。
もっと、もっと見たい。
明日のことなんて、もうどうだっていい。
たとえすべて失っても――。
今、夏目は確かに田沼の腕の中にいる。
しかし、一方で願わずにはいられなかった。
ああ、これが悪夢ならいい。
起きて、夏目に出会ったらすべて元通りになっていれば――。
目を固く閉じて見ても、現実は田沼を逃がしてはくれない。
「ん、ふ……っ」
口付けの合間に漏れる声が、掌に触れる熱が、すべては現実なのだと田沼に突きつけてくる。
こんなこと、間違っている。今すぐやめなくては――。
でも、どうやって?
今更思いとどまったところで、どうやって言い訳すれば――。
迷うたびに、逃避しようとより激しく求めれば、面白いほどに反応する敏感な肌が憎い。
まるで無限回廊のような、終わらない悪循環が田沼を逃がしてくれない。
このままでは、夏目との関係は完全に壊れてしまうかもしれない。
もうこれ以上は――。
そう思い、夏目を捕らえる田沼の手が緩んだときだった。
「……っ、田沼!」
抗議するような声と共に、夏目の細腕が田沼から逃れ、彼を突き放した。
「あ……」
よろけるように、一歩下がる。
「わ、悪い……おれ、」
顔を上げられない。
やってしまった。これで、すべて終わったのか――。
そのまま逃げ出そうとしたとき、
「待ってくれ」
細い指が、田沼の腕を捕らえた。
思わずはっと顔を上げる。
「さっきの質問だけど、」
怒るでもなく、蔑むでもない。ただ静かな夏目の眼差しが彼を受け止める。
いやだ、聞きたくない。
でも、この手を振り払うことができない。
視線を逸らすことすら、困難だった。
夏目は一瞬ためらって、しかしふっと息をついてまた田沼に向き合った。
――そして。
まだ濡れている唇が、ゆっくりと開かれた。
「俺が好きなのは、田沼だよ」
ゆるく微笑んだ夏目に、田沼は頭が真っ白になった。
「……え、」
「男同士で、おれたちは友達なのに、おかしいだろう。でも本当なんだ」
じゃあ、また明日――。
あっさりと手が離れ、夏目はくるりと背を向けて歩き出した。
ああ、これは夢か。
なんだか化かされたような気持ちで立ちすくんでいたけど、田沼ははっと駆け出した。
掌に残る体温と、まだ濡れている唇が伝えてくる。
これは、夢じゃない。
夢なんかで、終わらせて堪るか。
「夏目!」
手を伸ばし、細い腕を掴み、そして。
はっと振り返った夏目をそのまま、自分の胸へと引き込んだ。
まだ少し熱い身体が、これは現実なのだと伝えてくる。
今伝えずに、いつ伝えるというのか――。
一呼吸つき、意を決して田沼は口を開いた。
「……好きだよ」
細い肩が、ひくりと震え、指先へと伝わる。
「俺も夏目が好きだ」
やっと、言えた。
安堵と喜びがない交ぜになり、全身を満たす。
「好きだ、好きなんだ」
一度言ってしまうと、溢れるように言葉は零れた。
「わかった、もうわかったから!」
とうとう夏目が根を上げて、細い腕をぐっと突っぱねた。
白い頬がまた赤く染まっていて、いとしさが募る。
そのまま数秒経ち、ふっと夏目が笑った。
「なんか……順番がめちゃくちゃだ」
そんな風に言われてしまい、田沼は苦笑した。
「ごめん。正直、多軌に嫉妬したんだ」
「……は?」
夏目がきょとんとして、首を傾げる。
「だってお前ら、本当に仲いいだろう」
今日だって、と言うと、夏目ははっと目を瞬く。
「ああ、それは――」
一度言いよどみ、しかし続けた。
「多軌には、なぜだかバレてたから」
「なにが」
「おれが、田沼を好きだって」
「嘘だろう!」
唖然とした田沼に、夏目は苦笑して見せた。
「結構鋭いよ、多軌は」
まったく、恐ろしい女である。
田沼も苦笑しながら、自分たちのことが悟られるのも時間の問題かもしれない、とこっそり腹を括った。
――ただ。
それが翌日のことであるとはさすがの田沼も思い至らなかったが、それはまた、別の話だ。
end...
◇
090415/091212
田沼より少し上手(ウワテ)な夏目が好きだったり(^ω^)w
春先に書いたのか……。
脳みそが春ボケしていたに違いない。←