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田沼×夏目
ああ、どっちもじれったい!
すみません。
書いてる側も思います、が。
それが田夏だと思うのですw
越えられない。
越えたくない。
越えては、いけない。
ゆ め み が ち ジ ェ ラ シ ー (上)
「ん、ぅ」
どうして、こんなことになってしまったのか――。
細い手首を掴み、小さな舌を追いたてながら胸のうちで毒づく。
固く閉じられた目じりには涙が溜まっていて、白い頬が赤く上気している。
「は……っ、やめ」
掴む手首と、支えている腰から、確かな震えが伝わってきた。
恐怖、もしく嫌悪からだろうか。
どっちにしろ、こんなことは早くやめなくてはいけない。
謝って、それから――?
どう言い訳するつもりなのだ。
こんなことまで、しているのに――。
もう、戻れない。
差し迫る現実に追い立てられるように、再び唇を貪った。
「あ、っは……」
隙をついて喘ぐように呼吸するたび漏れる声が、ひどく扇情的だった。それに急き立てられるように、腰を支えていた手が自然と滑りシャツに潜り込む。
熱い、な。
普段はひんやりと冷えている肌が、今はなんだかひどく熱っぽい。
痩せた背中に浮いた背骨を辿ると、彼の身体がまた震えた。
「なつめ」
名前を呼び、いつもよりずっと熱い頬に触れる。
熱に浮かされたように潤んだ瞳が、焦点も合わぬまま、こちらを向いた。
そして、
「た、ぬま」
うわごとのように呼ばれた。
制止するべく発せられたそれも、今は煽情効果にしかならない。
「……っ……」
はじまりは、数時間前――登校中の出来事にさかのぼる。
「おはよ!」
朝のこと。
明るい声に振り向けば、多軌が笑顔で手を振っていた。
「ああ多軌、おはよう」
隣を歩く夏目の表情がやわらかくほどけ、田沼はおや、と眉を上げる。
もともと人当たりの良い夏目だが、こんなくだけた表情を見せることは珍しい。
――ずいぶんと仲が良いんだな。
田沼がそんなことを思っていると、
「ね、夏目くんちょっと」
多軌が夏目の腕を取り、軽く引いた。
何か囁き合っているのだが、声が小さくてよく聞き取れなかった。
意味深に多軌が微笑み、夏目はぱっと目を瞬かせた。
「多軌、それって」
「うん、あのね」
さらに多軌は夏目に寄り、耳元へ手を添えて何か囁いた。
夏目の頬が、心なしか赤くなる。
じわりとわいた感情に、田沼は小さく息をつく。
そのとき計ったように教室の前に辿りついた。
「じゃあ夏目、またな」
「ああ、また」
最近、夏目と多軌は仲が良い。
以前はまったく接点がなかったのだが、アヤカシがらみの一件で接点を持ったらしい。田沼も夏目を通じて知り合ったのだが、多軌は可愛い上に天真爛漫で、とても感じが良い少女だった。
――あいつら、お似合いだよな。
多軌と夏目が楽しげに話している様子を見て、いつか西村も言っていた。
そうだよな、夏目も男なんだ。
そんなことを思い、田沼はまた深く溜息をついた。
自分の気持ちを自覚してずいぶん時間が経ったが、田沼はまだ何も伝えられずにいる。そして、これから先も伝えるつもりはなかった。
今の関係を壊したくない。
一緒にいられるならば、いっそこのまま――。
そう決めたはずなのに。
「きついな……」
呟きはざわめきにまぎれ、溜息と共に消えた。
「……多軌のこと、好きなのか?」
その日の帰り道。
何気なく、それとなく――何度も自分に言い聞かせて、夏目に尋ねた。
「は?」
夏目はぱっと顔を上げ、驚いたように目を見開いた。
「なんで?」
本当に不思議そうに、問う。
胸にわくのは、わずかな苛立ち――。
「お前ら仲いいだろ。最近」
夏目は以前からもてるし、あからさまに一方的な好意なら気にならない。そんなものは自分で、いくらでも払いのけられる。
しかしもしも、一方的でないのならば――。
「だから、もしかして付き合ってるのかなと思って」
問いかけながら、どんどん後悔がその体積を増す。
こんなことを尋ねて、そうだと言われたら自分はどうするつもりなのだろうか。
よかったな、と笑って応援するのか。
そんなことができるのか――。
夏目はきょとんとしてから、まさか、と笑みを漏らした。
「そんなわけないじゃないか」
返ってきたのは否定の言葉なのに、胸のざわめきはまるで収まらない。
「……そうか」
「多軌は、友達だよ」
その言葉だけで、納得すれば良かったのだ。
それだけで、満足してしまえば、ずっとこのまま――。
傍に、いられる。
それ、なのに――。
「じゃあ、」
他に好きな人はいるのか――溢れるように、問いが零れた。
ああ、本当にどうかしている。
「それ、は」
夏目の足が止まり、唇が一瞬震える。
笑顔が、こわばったのは、きっと気のせいじゃない。
「悪い、言えない」
答えると同時に視線を逸らし、逃げるように歩き出す。
そのとき――、
「……っ……」
田沼の中で、何かが切れた。
つづく