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欲しいのは、自分だけ?
ヒ ト リ ヨ ガ リ の い じ わ る
「く、ふ……」
白い肌を、食む。
やわらかくて薄い皮膚は、存外弾力を持っていた。感覚が楽しくて、田沼は執拗に歯を立てては舌で味わった。
甘い――と感じるのは、やはりどうかしているのだろう。
「た、ぬま」
咎めるような声に顔を上げると、夏目が睨むようにこちらを見ていた。
もうやめろ、と言外に訴えているのがわかる。
しかし、そんな潤みきった瞳で睨み咎められても何の効力もなく、むしろ煽っているようにも見えて、田沼は小さく苦笑した。
「痕がつきやすいよな、夏目は」
独り言のように零し、また唇を落とす。
花びらのように赤い痕が残り、夏目が眉を寄せた。
「あ、こらっ……んッ」
指先と舌の両方からの愛撫に、いつもは白い肌はすっかり桜色になっていた。
しかし田沼は、まだ足りない――と思う。
どれほど触れても、どれほど味わっても、飢えにも似たこの欲望は尽きることを知らない。際限なく繰り返す快楽と枯渇は、まるで無限回廊のようでもあった。
焦らすようにゆるゆると触れ、じっとりと舐め上げる。
「く、もう、や……ァあ!」
前を刺激し、同時に後ろもいじってやる。
いつもの倍は施されている愛撫に、夏目はすっかり感じ入っているようだった。肌は上気し、息は早くも上がってしまっている。薄く開かれた唇からは絶えず声が漏れ、田沼は湧き上がる欲望を必死に堪えた。
「なつめ、」
焦点のずれた瞳に呼びかけると、律儀にも視線を合わせてくる。
「どうして欲しい?」
「え、」
突然の問いに、夏目の瞳が瞬く。
「どうして欲しいか、教えて」
そう言って、後ろに入れた指を増やした。
いやいやするように首を振る夏目は、容赦ない刺激に翻弄されながらも、必死に言葉を紡ごうとする。律儀でまっすぐ、それが夏目の良いところであり、彼の弱点でもあった。それを知っていながら、田沼はわざとそこを攻める。
「そん、わかんな、ァ……ッく」
「ん、なつめ」
どうしてほしい――?
覗き込んでやると、羞恥と快楽で大きな瞳はすっかり濡れている。
「も、やだ……たぬ、まッぁ」
涙の滲んだ瞳ですがるように、見つめられる。
「なに?」
手を休めることなく、田沼は問い返す。
「言わなきゃ、わからないだろう」
じりじりと施される中途半端な刺激に堪えるようにぎゅっと瞳を瞑り、ついに夏目が消えそうな声で呟いた。
「入れ、て……」
「く、ぁあっん!」
待ち望んだそれが押し込まれる衝撃に、背筋が震えた。
執拗に繰り返された愛撫に加え、散々焦らされたのだ。
「う、く……ぁンッ」
入れられた、ただそれだけで、夏目は死んでしまいそうな気がした。
瞳に涙が滲み、霞んだ視界に少し苦しげに眉を寄せた田沼の表情が映る。
「はぁ……ッたぬ、ま」
「ん、大丈夫か?」
気遣うつもりで呼びかけたのに、逆になだめるように頬を撫でられて、背筋にまた、じわ、と疼きが広がる。
生理的な涙がまたふくらみ、零れる前に舌で掬われた。
田沼は、やさしい。
どんなときも夏目を気遣い、待っていてくれる。
――それなのに。
今日は、なんだか意地が悪い。
何度繰り返しても慣れない夏目に反して、田沼はどんどん手馴れているような気がした。夏目はそんな田沼に毎回驚かされ、翻弄され、めちゃくちゃにされてしまうのだ。
何だかしてやられているようで、気に入らない。
じと、と睨んでやると、痛いのか、なんて的外れなことを訊かれて呆れてしまった。
瞳はいつもどおりやさしい色を湛えているけれど――。
「動いて、いいか?」
明らかな情欲が、滲んでいる。
しかし律儀に、毎回そんなことを聞く。
いまさら、と夏目が苦笑を漏らすと、そうだな、と田沼も笑った。
そして――。
「あ、あぁ……っんぁ!」
容赦なく、腰が押し進められた。
急激に強くなった刺激に、すぐ何も考えられなくなった。
必死に息を継ぐ。
「あ、ふ、く……ンっ」
頭が、おかしくなる。
まるで、すべての感覚を支配されているような――かといってアヤカシにとり憑かれているときとは、まるで違う。
田沼だけだ。
突き上げられ、みっともない声を上げながら、夏目は思う。こんな風に夏目を支配し、めちゃくちゃにできるのは、田沼ただ一人なのだ。彼のまなざしや掌、耳に囁かれる声にかかえればわずかな虚勢など何の意味もなく、あっという間に暴かれしまう。
「は、……なつめ、」
掠れた声で呼ばれて、耳に唇を落とされる。
「なつめ、すきだ」
舌が差し込まれ、吐息がかかる。
たったそれだけなのに――。
「んンッ……や、はぁ……ん」
意識ごとさらわれそうになって、必死に田沼にしがみついた。
「今日、どうしたんだ」
ぐったりとベッドに横たわったまま、夏目は問いかけた。
いつになく執拗な行為に、珍しく夏目は動けなくなってしまったのだ。
田沼はそんな夏目を気遣い、丁寧に事後処理を済ませた。そして今は夏目の隣に寝そべり、雑誌を捲っている。
「別に、どうもしないよ」
とぼけて首を傾げた田沼を、夏目は容赦なく睨んだ。
「嘘つくなよ。何かあったんだろ」
動けなくしておいてごまかすなんて、あんまりである。
そんな夏目の訴えを察したのか、田沼は小さく苦笑して、
「……あんまり言いたくない」
枕に顔をうずめた。
「なんで」
「情けない話なんだよ」
「今に始まったことじゃないだろう」
夏目の言葉に、田沼は大きく溜息をついた。
少しの沈黙――。
そして、重い口が開かれた。
「おればっかりだって、思いたくなくて」
「は?」
「だから。おればっかり欲しがってるって、思いたくなかったんだ」
情けないだろう、と呻いて、田沼はまた枕に顔を埋めてしまう。
夏目はそんな田沼をぽかんと見つめ、
「ふ、あははは」
声を出して笑った。
「なんだよ、笑うことないだろう」
田沼は思わず顔を上げ、傷ついた瞳を夏目に向けた。
夏目はそのまま堪えきれず少しの間笑い続け、そして悪い、と謝罪した。
「だってお前が、あんまりにも、かわいいから」
「なっ」
「かわいいな、田沼は」
そう言って笑うと、手を伸ばして田沼の髪に指をくぐらせた。
「……うれしくない」
「かわいいよ、本当に」
「この、」
「うわ!」
がばりと田沼が起き上がり、動けない夏目を押さえつけた。
そしてにっこりと笑みを作ると、
「いっそ何も言えなくしてやる」
再び覆いかぶさり、田沼は白い肌に唇を落とした。
end...
◇
090917/091213
ごめんなさいとしかいえませんorz