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田沼×夏目
恋愛色薄めです、が。
田夏らしくかゆい感じに仕上げてみました^^←
◇
子どもの頃から、変なものを見た。
見えると言ったら、うそつきと言われ、ひとりぼっちになった。
――うそじゃない!
何度も言ったけれど。
当然、信じてはもらえなかった。
だから僕は――。
本当の、うそつきになった。
う そ つ き の 見 る 世 界
――ああ、あれは。
学校の廊下を歩いているとき、夏目は校庭の木に少女が座っているのを見た。
歳は、おそらく自分とそう変わらないだろう。
木はずいぶんと高く、よくあんなところまで登ったものだと感心した。
「どうして、あんなところに……」
「どうした、夏目?」
「いや、あの木」
木を指差すと、友人は首を傾げた。
「木がどうかしたか?」
――そうか、きみには見えないのか。
夏目ははっと気がついて、ゆるゆると首を振った。
「いや、気のせいだった。悪い」
「そうか、大丈夫か?」
「ああ、少しぼうっとしてたみたいだ」
「おいおい、しっかりしろよ」
そう言って彼は笑い、歩き出す。
去り際に夏目がちらりと木に視線を投げると、やはり少女はそこにいた。
――アヤカシ、か。
よく考えれば、あんな少女がひとりであんなところまで上れるはずがない。
彼女は夏目が見ていることに気づき、にこりと笑った。
ひっそりと、少し寂しげな笑み――。
後ろ髪引かれる思いだったが、チャイムが鳴ったので教室へ戻った。
アヤカシが見えることは、絶対の秘密だ。
子どもの頃はよく口にしたし、見えることも主張した。しかし見えないものを信じろというのも無理な話で、誰一人夏目の言葉を信じるものはいなかった。友人たちは次第に気味悪がるようになり、そのうちうそつきと罵るようになった。そうしていつしか、夏目に構うのはアヤカシばかりになってしまった。
ここの人々は、やさしい。
嫌な思いをさせたくないし、嫌われたくなかった。
結果的に、それで本当に嘘をつくことになったとしても――。
放課後――少し気になってまた廊下から例の木を見た。
しかし少女は、すでに姿を消していた。
何か言いたいことがあったかもしれないのに――そんなことを思いながら、いまや無人となった木をぼうっと眺めていると、夏目の肩を軽く叩く手があった。
「どうしたんだ、そんなところに突っ立って」
驚いて振り返ると、田沼要が立っている。
彼は夏目ほどではないが、アヤカシの気配を感じて、ときにはぼんやりだが姿を見ることもあるらしい。しかしその反面でアヤカシの力に中(あ)てられやすく、体調を崩してしまうこともしばしばあった。
「いや――」
なんでもない、と言いかけたが、
「何か見えたのか?」
そう問われて微笑まれると、思わず首を縦に振ってしまった。
「そうか。残念だけど、俺には見えないな」
田沼は視線を木に投げたけれど、少し寂しげに微笑む。
夏目に見えても、田沼には見えないものも多い。
夏目からすればそれは幸せなことのように思えたけれど、彼はそれを知るときいつも少し残念そうだった。
「……今はいないから」
夏目が呟くと、田沼はまたこちらへ視線を戻した。
「昼間は女の子が座ってたんだ。今は俺にも見えないよ」
言い訳がましかったか、とも思ったが、夏目の言葉で田沼はまたやわらかく微笑む。
「そっか」
じゃあ、帰るか、と言われ、連れ立って歩き出す。
しばらく無言で歩いていたら、田沼がふっと口を開いた。
「ときどきもどかしくてさ」
「え?」
夏目が顔を上げると、田沼は小さく苦笑して続けた。
「夏目が見えるものが、俺には見えないことがあるだろう」
「うん」
「お前はそういうものが見えたり感じたりするのがすごく嫌だったんだけど、今は少しもどかしいって思うことがある」
俺にも同じ世界が見えたらいいのに――。
呟くように言う田沼はびっくりするほど寂しげで、夏目は目を瞬いた。
そしてそのあとは、少しこそばゆいような、妙な気持ちになった。
「……変だな、お前」
ごまかすように呟くと、そうかもな、と田沼は笑った。
そのあとは、あまり話さないまま家路へついた。
しかしそれは気まずくない、心地よい沈黙だった。
気味が悪いと否定され続けた、夏目の視界を共有したいと言う人がいるなんて思わなかった。
すごく嬉しくて、夏目は、何もいえなかった。
――だって、気づいてしまった。
田沼の前では、うそつきにならなくていいのだと。
end...
090321/091212
田夏処女作です(笑
引越しにあたり、少し改訂いたしました。