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嘘なんて、一度もついたことはない。
顔に出ていなくても。
態度に出せなくても。
わたしは、こんなにも――
年 上 の 彼 女 は 、
後 編
彼――狐塚ユウタと付き合いだしたのはほんの1ヶ月ほど前のことだ。
「俺と付き合ってください、中條先輩」
きっかけは、ひどく単純だった。
ひとつ学年が下の1年生で、学校ではプレイボーイで有名だったユウタが、ある日突然ひとりで生徒会室へ乗り込んできたのだ。
そして書記であるあたしの席の前で仁王立ちして、そんなことを言った。
「――どうして、あたしなの?」
もう少しましな答えがあるだろうに、あたしは返事をしてしまった。
ただ、わたしはそのとき、彼のことをよく知っていた。
ひとつ下の学年の問題児、狐塚ユウタのことを――。
数ヶ月前、見てしまったのだ。
街で買い物をとき、小さな女の子が泣いていた。
可愛らしいワンピースをアイスクリームで汚し、たったひとりで泣きじゃくっていた。
迷子だと一目見てわかったけれど、わたしはすぐに動けなかった。
そんなとき――。
「なんだ、お前迷子か?」
ユウタが現れ、ためらうことなく女の子の前にしゃがみこんだ。
女の子が頷くと、よし、と頷いて、ユウタは――。
「ほら、しっかり捕まってろよ」
軽々と、女の子を肩車した。
そして女の子の名前を尋ねると、大きな声で叫んだのだ。
「さつきちゃんのお母さーん、いませんかー!」
そのとき明るく染められた彼の髪には、女の子のワンピースを汚したアイスがべったりとついていた。
しかし彼は気にするようすもなく、しばらくそのまま呼びかけ続けた。
ほどなくして、女の子と母親は再会することができた。
母親は何度もユウタに謝り、彼の髪が汚れたことを気にした。
「こんなのすぐ洗えます。それよりもう手、離しちゃだめですよ」
ユウタは明るく笑って女の子に手を振り、あっという間に去ってしまったのだ。
気まぐれで女泣かせ――そんな悪名高い問題児の意外な一面を見てしまった。
それ以来、わたしはユウタから目が離せなくなっていたのだ。
告白されたときは、飛び上がるほどに驚いた。
ただ、すぐには合意できず、数週間ごねてしまった。
恥ずかしかったのと、からかわれているのだと思ってしまったからだ。
本当は多分、彼よりもわたしの方が、恋に堕ちていたのに――。
そして、今――。
「カナさん、ごめん」
わたしはあのときの女の子のように、ユウタの胸で泣きじゃくっていた。
本当に、どうかしている。
そしてやっと落ち着いたとき、すっかり情けない気持ちになっていた。
もっとちゃんと、伝えなくてはいけないのだ。
すべてわかってもらえているつもりになっていた。
ユウタは底抜けに明るくて、やさしい。
どんなときも笑顔でわたしを受け止めて、包んでくれる。
そんな彼に、つい甘えてしまっていた。だから、
――俺ばっか、好きみたいで。
そんな風に思わせてしまった。
何のつもりはなくても、わたしは彼を傷つけたのだ。
「ごめんね、ユウタ」
しばらくして零れた謝罪に、彼は慌てて首を振った。
「謝らないで、俺がガキだっただけで」
ああ、ほら――またそうやってわたしを甘やかすのだ。
「違うの」
いつまでも、甘えていたくない。
甘えていては、いけない。
緊張でこくり、と喉が鳴った。
「わたしは、表情が乏しくて」
ユウタの手に触れる。
硬くて大きくて、あったかな手に――。
「あまり、伝わらないかもしれないけど」
「え、カナさん?」
ユウタはぎょっとして目を見開いた。
わたしはユウタの手を持ち上げ、自分の胸元へとあてたのだ。
「すごく好きなの、ユウタのこと」
ほら、どきどきしているでしょう?
問いかけると、ユウタは玩具みたいにかくかくと首を振った。
「うん、わかった!わかったから……!」
もう降参、と言ってユウタは無理矢理にわたしをまた抱きしめた。
そしてはぁ、と大袈裟に溜息をつくと、こう付け加えた。
「やっぱり、カナさんには敵わないよ」
◇
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